資料室 / 出土文字資料(国宝)
平城宮跡出土木簡
8世紀(奈良時代) / 2026-08-31
★ここに史料そのものは置いていません。これは「この史料をどこまで信じてよいか」の台帳です。原文の翻刻も単独の現代語訳も載せず、どこで読めるかを案内します。この媒体が実際に読んだ範囲に限り、判読と下訳を「読んだ本文(対照)」の節に置くことがあります(AI の判読・専門家の校閲未了)。この台帳自体を、記事や論文の典拠にはしません。
どんな史料か#
平城宮の跡から掘り出された、墨で字を書いた木の札のまとまりです。
国指定文化財等データベース(文化庁)は、次のように書いています(逐語)。
「平城宮跡から出土した木簡のまとまりで、①文書、②荷札・付札、③習書・落書、④木簡表面を削った削屑に大別される」
| 項目 | 記載 |
|---|---|
| 指定 | 国宝(種別:古文書)【定説:指定の事実として】 |
| 指定年月日 | 2017年9月15日【定説:機関の記載として】 |
| 員数 | 3,184点【定説:機関の記載として】 |
| 時代 | 奈良時代(8世紀)【定説:機関の記載として】 |
| 所有者 | 独立行政法人国立文化財機構【定説:機関の記載として】 |
文化庁の広報誌「ぶんかる」は、この3,184点の内訳を書いています(逐語)。
「平城宮跡出土の木簡はこれまで,計4件,2,875点が重要文化財指定を受けてきました。 そして9月,これら重要文化財を統合しつつ,新たに309点の木簡を加えた計3,184点の木簡が, 「平城宮跡出土木簡」として国宝に指定されたのです。」
同誌は「木簡としては初めての国宝指定」とも書いています。
★つまり 3,184 は、新たに掘り出された数ではありません。 ★2,875点はすでに重要文化財だったものであり、新規は309点です。 ★「3,184点が国宝になった」と「3,184点が出土した」は、まったく別のことです。
この史料の位置——書物の外にあるということ#
文化庁の同じ解説は、価値をこう書いています(逐語)。
「六国史などの編纂された史書からは知りえない、奈良時代の社会、経済に関する 日常的な事柄を伝える同時代史料として貴重」
e国宝(国立文化財機構)は、中身をこう挙げています(逐語)。
「平城宮内の事務処理に用いられた書類、全国からの貢納品に付された荷札など」 「聖武天皇御物の付札から下級役人の文字の練習や落書き、手工業生産にともなうもの」
★この時代の政変は、いま読める最古の写しが13世紀という1冊の書物に依っています(S-J016)。 ★それに対して、この木の札は、8世紀にその場で書かれ、その場で捨てられた現物です。
★どこから出たか——ごみ穴である#
木簡は、宮の中の「ごみ穴」から出ます。
奈良文化財研究所が公開している発掘の記録に、次のように書かれています(逐語)。
「今から十年前の2009年1月に、平城宮東方官衙地区の一画で 推定十万点とされる木簡が検出された大きなごみ穴が発掘されました。」
★そして同じ穴の底から、別のものが出ています。
「このごみ穴をすべて掘り上げた穴の底から、多量のウリの種を含む小さな穴が、数か所見つかりました。 ウリの種の塊とともに、トイレットペーパーとして使われた籌木(ちゅうぎ)と呼ばれる細い木の棒も 一緒にたくさん見つかったので、これはうんちを捨てた穴もしくはトイレ穴だろうとすぐに察しがつきました。」
「1㎤に寄生虫の卵殻が5千個以上含まれていればうんちという判定基準があります。 この'もの'は、なんと2万6千個!」
「このときうんちと一緒に掘り出した五万点を超えるウリの種のなかから充実してそうなものを選んで、 発芽させようと様々に工夫してみました。……結果は、残念ながらひとつも発芽しませんでした。 ウリの実が若く種が未熟な状態で食べられていたためと、千三百年以上空気に触れていないので、 種が呼吸できず死んでしまっているのでしょう。」
★この記述は、奈良文化財研究所の職員が機関のサイトに書いたものです【定説:機関の記載として】。 ★発芽しなかった理由の2つは、書いた本人が「でしょう」と書いています。断定していません推測。
原本はあるか#
★★あります。というより、この史料には原本しかありません。
本台帳がこれまで扱ってきた文献史料は、どれも同じ形をしていました。
| 史料 | 成立とされる年 | いま読める最古のもの | 隔たり |
|---|---|---|---|
| 『続日本紀』(S-J016) | 797年 | 13世紀後半の写本 | およそ450〜500年 |
| 『古事記』(S-J015) | 712年とされる | 1371・72年の写本 | 約660年 |
| 本台帳(木簡) | 8世紀 | ★8世紀のその木そのもの | ★無い |
★書かれた時と、いま手にあるものの間に、写した人が1人も挟まりません。 ★これは、この資料室の「原本はあるか」の欄が、はじめて「ある」と書ける項目です。
★ただし、別の距離があります#
★木の札そのものと、読者が目にする文字は、同じものではありません。
読者が読むのは、掘り出された木ではなく、それを読み取った文字列(釈文)です。 ★木は書き直されませんが、釈文は書き直されます(「後世の手」を見てください)。
★そして、木の札は、掘り出された時点でいちばん良い状態にあるとは限りません。 出土後の保存の方法と、それによる状態の変化については、本台帳は機関の記述に到達できていません※1。
後世の手#
1. ★木の札に、後世の加筆は入りません【定説:史料の性質として】
写本で伝わる文献は、写し間違い・注記の混入・訓の付加を前提として扱います(S-J016)。 ★木簡は写されていないので、その前提が当てはまりません。
2. ★★入るのは、釈文のほうです【定説:刊行物の記載として】
奈良文化財研究所が刊行してきた『平城宮発掘調査出土木簡概報』の目次には、 ★「訂正」の項が立っています(例:「付 平城宮発掘調査出土木簡概報(二十一)(二十三)訂正」)。
★つまり、いちど公にされた読み取りが、あとから直されています。 ★「木簡は書き直されない」は、木についての話であって、読み取りについての話ではありません。
★何がどう訂正されたのかの中身までは、本台帳は追えていません※2。
3. ★削屑は、後世の手ではありません【定説:機関の分類として】
文化庁の分類の4つ目は「木簡表面を削った削屑」です。 ★これは当時その場で削り取られた文字であり、後世の改変ではありません。 ★同時代の人が消した跡が、消したかたちのまま残っている、という珍しい史料です。
4. 本台帳は、個々の札の真偽や解釈の当否を判定しません(資料室規程 第4条)。
どこで読めるか#
この台帳は原文の翻刻も現代語訳も置きません。 読める場所を指し示します。
- 木簡庫(奈良文化財研究所) https://mokkanko.nabunken.go.jp/ja/ 「木簡に記載された文字及び文字画像だけでなく、木簡に関する様々な情報を検索するシステム」。 制作は都城発掘調査部史料研究室・企画調整部文化財情報研究室。 木簡のデータベースは1999年に最初に公開されたと記されています【定説:機関の記載として】。 ★個別のレコードには、外部の検索から入れます(2026-08-06 の実測)。 ★★このデータベースそのものについては、資料室に別の台帳(S-J017 木簡庫)があります。 登録点数・登録が出土の一部にとどまること・釈文の記号の読み方は、そちらに書かれています。 ★ただし、値を引くときは木簡庫そのものに当たってください。台帳は典拠になりません。 ★2026-08-31、本台帳はトップページを自分で開き、「登録点数:57352」の表示を確かめました【定説:機関の表示として】。 ★この数はデータベースの登録数であって、指定数でも出土の累計でもありません。 なお「木簡庫とは」のページには、件数の記載はありません(説明文と公開の沿革のみ)。
- e国宝(国立文化財機構) https://emuseum.nich.go.jp/detail?langId=ja&content_base_id=101305 国宝「平城宮跡出土木簡」の解説と画像があります。
- 文化遺産オンライン(文化庁) https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/437590 指定区分・指定年月日・員数・所有者の書誌があります。
- 国指定文化財等データベース(文化庁) https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/201/00011762 種別「古文書」、員数3184点、指定年月日の記載があります。
- 奈良文化財研究所 学術情報リポジトリ https://repository.nabunken.go.jp/ 『平城宮発掘調査出土木簡概報』がPDFで公開されています。★釈文の訂正も、ここに載ります。
- 平城宮跡資料館(奈良市)に現物の展示があります。 ★上の「一本うんち」も、ここで展示されていると記されています。
★「木簡にこう書いてある」という短い引用が、出所を示さないまま流通しています。 ★その字が、どの刊行物の、いつの時点の読み取りかは、たいてい書かれていません。
典拠にするときの注意#
★この台帳自体は、記事や論文の典拠にできません。 実際に参照した刊行物と機関の記載を直接あげてください。
- ★★点数を書くときは、それが何の数かを必ず添えてください。 登録数(データベース)/指定数(国宝・重要文化財)/出土数(発掘)は、まったく別の数です。 ★3,184点は指定数であり、そのうち新規は309点です
- ★★釈文を引くときは、どの刊行物のどの版かを添えてください。 訂正が出ています
- ★「削屑」を後世の改変と書かないでください。 同時代の削りです
- ★「木簡は書き直されない」は、木についての話です。 読み取りは直されます
- ★★ごみ穴から出た、ということ自体が、この史料の性格です。 残っているのは、捨てられたものだけです。 ★捨てられなかったものが何だったかは、この史料からは出てきません
- ★ウリの種と籌木の記述を引くときは、機関のサイトの記事として引いてください。 ★発芽しなかった理由は、書いた本人が「でしょう」と書いています
- 8世紀の同時代の文字資料は、木簡と正倉院文書です(S-J016 の注意6)。 ★正倉院文書の台帳は、まだありません。無いと書いておきます
この台帳の未確認事項#
| 番号 | どういう種類か | 内容 | 確認できたら何が変わるか |
|---|---|---|---|
| ※1 | この記事では手が回っていない | 出土後の保存の方法と、木の状態の変化。 水に漬けたまま保管されるといった一般的な説明には行き当たったが、機関の記述として確かめていない | 「原本しかない」と書いたときの、その原本がいまどういう状態かを書けるようになる |
| ※2 | この記事では手が回っていない | 釈文の訂正の中身。 刊行物の目次に「訂正」の項があることまでは確かめたが、何がどう直されたかは見ていない | 「読み取りは直される」を、実例で書けるようになる。★この台帳でいちばん効く未確認事項である |
| ※3 | この記事では手が回っていない | ごみ穴から出た寄生虫の種類。 機関のサイトの記事は卵殻の数だけを書き、種類を書いていない | 何を食べていたか・どこから寄生されたかを、種類の側から書けるようになる |
| ※4 | この記事では手が回っていない | 平城宮跡から出土した木簡の累計総点数。 指定数と登録数には到達したが、出土の累計を書いた機関のページに到達できていない | 「◯万点の木簡が出ている」と書けるようになる。★いまは書けない |
| — | この記事では手が回っていない | 最初に木簡が出たSK219のごみ穴の、発掘の年。 文化庁「ぶんかる」は「SK219と名付けられたゴミ捨て穴から,約40点の木簡が出土」と書くが、年を書いていない | この史料の発見史を、機関の記載として書けるようになる |